事故の顛末

 私はかつて転居を繰り返していた。

 福島区の端に住んでいた。自転車で新淀川を渡り、東海道線を潜り、職場まで通っていた。

 

 ◯◯団地に住んでいた。1号棟から3号棟まであったと記憶する。2号棟の9階に住んでいた。窓を開放していたので、暑い季節かなと想像する。

 夜。突然、大爆音とともに衝撃波が抜けていった。

 何が起きたか。窓から外を見た。向かいの棟の低層階の一室が窓ごと吹き飛んでいるのだ。ヒッチコックの『裏窓』みたいに、双眼鏡を取り出した。遺体らしきものの一部が見える。煤で黒ずんでいる。消防車の警報音が鳴っている。現場検証らしき明かりで部屋が明るくなっている。ガス爆発だと思った。

 

 翌日、新聞を開けて原因がわかる。学校のPTAで知り合った男女が世をはかなんで、ガス自死を企てた事故だったのだ。「不倫」を解決する手段が都市ガスであったのだ。川端康成はガス管を咥えて自死をした。臼井吉見の小説『事故のてんまつ』に川端の自死が描かれている。

 ガスを部屋に充満させて不倫を解消しようとした二人。明かりも消して。臭いが漏れて、隣室の住人か管理人が解錠して、明かりを点けた。電灯の火花がガスに引火して、爆発したらしい。二人は目的を成就することができた。彼らは添い遂げることができたが、残された遺族たちには複雑な想いが残っている。

 

 その心中事件が起きた場所には、新たな歴史が地層のように積み重なっている。