白羽大介の名は消えず

 白羽大介を「消えた喜劇人」と書いたが、『松竹新喜劇無休連続二十年記念 喜劇の系図』という小冊子が手元にある。昭和61(1986)年11月発行。松竹新喜劇文芸部・中座宣伝部作成。松竹株式会社演劇部監修。

 

 「喜劇の番附」には、一頁に六葉の写真が載っている。曽我廼家五郎劇絵番附(大正15年)、志賀廼家淡海・曽我廼家幹部合同一座絵番附(大正15年)が編年順に写真が掲載されている。松竹家庭劇絵番附(昭和4年)、松竹家庭劇番附表紙(昭和13年12月)、松竹新喜劇結成時番附表紙(昭和23年12月)、松竹新喜劇番附表紙(昭和61年10月)と続く。

 

 次頁に大阪の喜劇の系図が載る。「大阪にわか」から藤山寛美率いる「松竹新喜劇」に至る系図が載っていて、たいへん参考になる。

 

 三頁に系図に連なる人物名が挙がっている。大阪にわか、楽天会、曽我廼家兄弟劇、志賀廼家淡海劇、曽我廼家五郎劇、曽我廼家十郎一派ごとに名前が列挙されている。

 

 四頁は、松竹家庭劇、劇団すいと・ほーむ、松竹新喜劇の俳優が写真入りで紹介されている。二代目渋谷天外、曽我廼家十吾、曽我廼家明蝶曽我廼家五郎八、浪花千栄子(元天外夫人)、藤山寛美、九重京子(二代目天外夫人、当代天外の母)曽我廼家鶴蝶、千葉蝶三朗、酒井光子、小島秀哉、石浜祐次郎、小島慶四郎、花和幸助の名が懐かしい。

 

 五頁になると、多彩な俳優の顔ぶれになる。松竹家庭劇に曽我廼家十吾はもちろん、高田次郎、旭輝子、金乃成樹、伴心平、八木五文楽石井均(西川きよしの師匠)、鮎川十糸子、今川正(漫才師いま寛大)の名がある。松竹新喜劇藤山寛美、四条栄美、中川雅夫、大津十詩子、八木五文楽、伴心平、金乃成樹、月城小夜子、勝浦千浪、曽我廼家文童、博多淡海滝由女路、渋谷天笑(当代の天外、二代目天外の次男)、曽我廼家寛太郎、正司照恵(元かしまし娘の照江)、高田次郎、そして白羽大介だ。

f:id:higachanntan:20230607012206j:image松竹新喜劇時代の白羽大介

 

 昭和49(1974)年に白羽大介が松竹新喜劇に入座する。

 昭和40(1965)年10月、ルーキー新一吉本興業を退団して、白羽大介、森信らと「ルーキー爆笑劇団」を立ち上げる。劇団の立ち上げはオープンカーに乗ってパレードした。紋付き姿のルーキーと白羽の後ろに藤山寛美が写っている。その後、ルーキー爆笑劇団は千日劇場(千日前のビッグカメラ)の常打ち劇団になる。白羽大介とルーキー新一吉本興業に入ったのは同期(昭和35年)だったが、年齢では白羽が一回り上だった。

 

 昭和55(1980)年3月4日、ルーキー新一守口市の自宅で衰弱死しているのを長女が発見。「終着駅、哀れ」と夕刊紙に書かれる(大阪新聞、昭和55年3月6日)。

 訃報を聞いた白羽大介のコメントがある。「最後に会ったのは昨年の暮れ、新喜楽座(角座)の楽屋でした。訪ねてきてくれて、守口のスナックで働いて借金もぼちぼち返済しているというてましたけど、やせ細っていたので心配はしていましたが‥。彼とは吉本の劇団が一緒やったし、そこを出てから五年間、二人で漫才や芝居をやった古い付き合い。あの“事件”後は別々の道に進みましたけど彼は他の人がマネできないものを持っていた。千日劇場に出ていた頃が華でしたなあ」(スポーツニッポン昭和55年3月6日付)

 

 「あの事件」とは、昭和43(1968)年10月31日のことだ。

 巡業先の旅館で一座の女優が風呂に入っていた。それを覗いた会社重役にリンチを加え1ヶ月の大けがをさせ、大阪に戻ってからも慰謝料35万円を恐喝の疑いで逮捕された。ルーキーは直接絡んでなかった。慰謝料交渉をしたマネージャーが反社の元組員だった。ルーキーは昭和45(1976)年3月、有罪判決が出た。懲役6月、執行猶予2年であった。

 

 その後、白羽は昭和62(1987)年4月の守口市議会議員選挙に立候補した。本名の後にカッコ付きで芸名を入れている。しかし、落選した。立候補は一度だけであった(守口市選挙管理委員会調べ)。

 

 吉本興業の社史からは、二人のコメディアンの名はない。白羽大介は昭和49年に松竹新喜劇の舞台に上がることができた。それには藤山寛美の存在があったのであろう。運と実力としきたりの世界である芸能界。白羽大介の名は消えても、観客の記憶の中に生きている。

 

【参考文献】

ルーキー新一のイヤーンイヤーン人生』澤田隆治

松竹新喜劇無休連続二十年記念 喜劇の系図』(昭和六十一年十一月)松竹新喜劇文芸部・中座宣伝部作成。松竹株式会社演劇部監修

『決定版 上方芸能列伝』澤田隆治著(ちくま文庫)

白羽大介の市議選立候補については、守口市選挙管理委員会に問い合わせをし、2023年6月8日に聞き取りをした。